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文芸江戸硝子展「玻璃の言ノ葉」2016年5月20日(金)〜21日(土)六本木ヒルズ 〈ヒルズカフェ/スペース〉開催報告

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開催概要

現代詩歌と江戸硝子の粋なコラボレーション

 今年5月、都心のビル群に降りそそぐ爽やかな春の日差しのもと、六本木ヒルズにて文芸江戸硝子展「玻璃の言ノ葉」が開催されました。
 六本木ヒルズは2003年にオープンし、年間4000万人以上が訪れる都内屈指の複合施設です。ショッピングセンターやオフィスのほか、美術館や日本庭園を備え、敷地内に現代アート作品を散在させた六本木ヒルズの誕生は、それまで夜のイメージがつよかった六本木の街を「文化都市」へと進化させました。その後も、六本木には国立新美術館やサントリー美術館など、美術施設が続々と誕生し、いまやすっかりアートの街として浸透しています。
 そんな六本木のランドマーク的存在である六本木ヒルズ森タワーのなかに、本展の展示会場となった〈ヒルズカフェ/スペース〉があります。その名のとおりカフェを併設したイベントスペースであり、六本木ヒルズのなかでも美術館や展望室へとつながる主軸動線上に位置しているため、つねに多くの人がその前を行き交っています。
 本展会期中は、シンプルで都会的な雰囲気の内装に合わせ、落ち着いた木目調の飾り棚を設置し、そこに文芸江戸硝子の花器233点を展示いたしました。
 江戸硝子は、江戸時代からの伝統を受けつぎ、いまも一つひとつ職人が手作りで製造しているものです。大量生産とは異なる味わい深さがその持ち味ですが、今回は粋な江戸工芸らしい瑠璃(青)、赤、紫の三色の色着せ硝子を用いて、なだらかで上品な丸みの花器に仕上げていただきました。
 花器の前面には、サンドブラストで現代詩歌と、その情景に即した図柄が加飾されています。透明な硝子に重ねた色硝子をわずかに削ることで生みだされる繊細な色の濃淡が、言ノ葉の一語一語をくっきりと浮かび上がらせ、凛とした美しさを感じさせてくれます。
 〈ヒルズカフェ/スペース〉はガラス張りになっているため、なかにずらりと並ぶ文芸江戸硝子の水際立った鮮やかさは、往来の人々の注目を大いに集めていました。
 流行の先端を行くアートの街、六本木においてもけっして引けをとらない江戸硝子の存在感が、現代詩歌の豊かな感性をしっかりと受け止めて、「玻璃の言ノ葉」はいままでにない現代的で洗練された雰囲気の文芸展になりました。
 また、本展には歌人の小島ゆかりさんと俳人の星野高士さんも来場され、興味深く作品を鑑賞されました。下記のとおり、お二方にはそれぞれ印象に残った作品と展覧会のご感想をいただいております。

本展会期中は、シンプルで都会的な雰囲気の内装に合わせ、落ち着いた木目調の飾り棚を設置し、〈ヒルズカフェ/スペース〉に文芸江戸硝子の花器233点を展示いたしました。

優美な「玻璃」と「言ノ葉」の共鳴

 五月の明るい光が映える、六本木ヒルズ二階の〈ヒルズカフェ/スペース〉。通りに面した全面ガラスの向こう側からも、魅力的な硝子の花器が並ぶ展示スペースが見える。
 赤と青と黒、三色の花器の美しいフォルムに、花や蝶の繊細な細工がほどこされている。そして、江戸硝子独特の色着せ硝子(透明なガラスと色ガラスを重ねた二重構造のガラス)の、透明ガラスの部分に、一首ずつの作品が浮かび上がる。

小島ゆかり(歌人、「コスモス」選者・編集委員)

 古典的な手法の歌あり、自然の歌あり、生活の歌あり、むろん愛の歌あり、追悼の歌あり。作者も歌の言葉も異なる作品が、全体としてしっくりとひとつの雰囲気を作り出しているのも、不思議なことだった。
 それはたぶん、優美で深みのある江戸硝子の花器に湛えられた「玻璃」と「言ノ葉」の、静かな共鳴であるにちがいない。

全身にあまねく春の日を受けて草に寝ころぶ我も大地ぞ  田中節子

枝わたる春告鳥の声愛しあずまの地にて逝きし子めぐる  東 巳和

縄跳びの幼の足に鈴懸の葉をからませて木枯らし過ぎる  宮川智子

小島ゆかり(歌人、「コスモス」選者・編集委員)

豊かなる言葉

 俳句を作るときになかなか見つからないのが言葉。それは普段使っている言葉も作句という心持ちになると失い勝ちである。「玻璃の言ノ葉」が大変に盛況であった一つにこの言葉を作品に仕立て伝統工芸の江戸硝子にしたことであろう。つまり自分の言葉が作者から離れることが出来たからである。それは作句するという心持ちも離れていくのであろうか、生き生きとした言葉ばかりであった。

星野高士(俳人、「玉藻」主宰)

抽出しの父の時計も年越ゆる  池森昭子

 父への思いは尽きないが抽出しの父の時計も共に年越しをした作者の心持ちがまっすぐに伝わってきた。肉親を詠んだ甘さはもうここには無いのである。

夕ざくら一ひら盃に浮きにけり  岡本金治

 なによりも美しい場面が眼の前によく現れてくる作品。とくに夕ざくらと時間を指定してくれたのが読手にとって有難かった。お花見の宴の一場面であろう。

木枯の夜空に色のありにけり  谷村亜惟子

 いろんなところを気付かせてくれるのもその作品の力。普通木枯は色を失うが、木枯の夜空はどこまでも澄み、その時の色を生むのである。共有できる発見が新らしい。

星野高士(俳人、「玉藻」主宰)

アンケート結果

アンケート結果から

 このたびは2日間という短い会期ではございましたが、初日は午後11時、2日目は午後10時までと遅い時間帯までの開場だったこともあり、大変多くの人にご来場いただくことができました。カフェ併設の会場であったため、会社の昼休みや仕事帰りに寄られた方も多くいらっしゃいました。
 アンケートには、「カフェスペースでゆっくり見られてよかった」「都会のなかのひとときの癒しを感じた」といったお言葉が寄せられていました。
 江戸硝子と文芸の組み合わせについては、「きれいな硝子で、美しい言葉を刻むのにふさわしい」「器に刻むことで詩が日常にしっかりと位置づけられて嬉しい」「風情があり、文芸がいっそうしみじみと感じられる」など、好意的なご意見を多数いただいております。
 本展は、現代詩歌と江戸硝子を組み合わせたコラボレーション文芸展でしたが、花器という実用の美を用いることがひとつの新しい試みでもありました。これ見よがしではなく、実用のなかにさりげなく遊び心を同居させる粋な魅せ方は、江戸文化の真髄でもあります。日常の生活のなかでさりげなくその味わいに触れてもらうことで、詩歌のもつ魅力を次の世代へと伝えていくことが叶うのではないでしょうか。「玻璃の言ノ葉」では、カフェという日常のなか、伝統文化に親しむ粋な時間を多くの方々に過ごしていただくことができたのではないかと感じております。
 最後になりましたが、本展の成功はひとえにご参加くださいました皆様方のおかげと存じ、あらためて心より感謝申しあげます。

「玻璃の言ノ葉」では、カフェという日常のなか、伝統文化に親しむ粋な時間を多くの方々に過ごしていただくことができたのではないかと感じております。
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